「リラ、行ってくるよ」
リラは時々、駐車場の先で見送ってくれる。
S井さんの家の横。2年9ヶ月前。私が引っ越してすぐの頃にリラに出会った場所。
数時間して戻ると、リラはそこにいた。
「リラ、帰るよ」
100メートルほどの坂道をリラはついていくる。
寒い夜は、私の家で寝る。
私は、人の寝息がすると気になってなかなか眠れない。だけど、猫は、気配を消して静かに寝るんだと知った。
時々、私の猫かと訊かれる。
私の猫じゃない。この町の、みんなが迷惑だという野良猫。
私は、ペットを飼えるような暮らし、生き方の人じゃない。
私に、もしも、何かがあったら、リラはまたS井さんの家のそばにいて、誰かが隠れて、餌をあげるのだと思う。
リラには、リラの生きてきた場所があって、私には、私の生き方がある。
きっと、なるように、なる。
Que Será, Será(ケ・セラ・セラ)
そうやって生きてきたように。
そうとしか、生きられなかったように。
そうやって、いろんな所に行って、いろんな人と出会い、たくさんの幸せを心にもらえたように。
リラからも幸せをもらっているような気がする。
キューバ人たちにも「しょーこは、ケ・セラ・セラだね」と驚かれる。
人生って何も思うように行かない。決めたようにはならない。だけど、なんとかなってきた。
きっと、神さまは最良な道をくれる。
麻生子と麻生美にも。
本当の豊かさは、ハートに刻まれる出会いや経験だと思ってる。
アル中で驚くほど貧乏だった、ダニーのパパのように、ハートに刻まれるものは、きっと、お金で買えないもの。
私たちは、もう、お金や物では豊かになれないと、気づいてきたんだと思う。
いつも、リラに「ありがとう」と言う。
出会って、「今」を一緒に過ごせていることに。
リラは、私の心を豊かにしてくれている、気がする。
猫に奮闘した半年。
新しい、年が来る。
きっと、なるように、なる。