夜、歩いていると、ある家のキッチンの勝手口の扉が開く。

ご主人が、右、左と頭を動かす。

奥さんが、奥から来て、二人で頭を、右、左と動かす。

ゆきさんが来てないか。ほかの野良猫たちが来てないか。

ゆきさんは、とても臆病で、すごく、すごく警戒心が強い。避妊手術のために捕獲する2週間ほど前から、私が餌やりに行っていた。

とても、とても、警戒心が強く、出てこない日もよくあった。

あのキッチンの勝手口の扉が開くと、時々ゆきさんが扉のところにきた。たいていご主人が出てくる時だった。

奥さんいわく、ゆきさんは5年くらい前に生まれたようで、このあたりで生きてる。ほかにもきょうだいがいたけど、ゆきさんだけがこの町に残ったようだ。

「餌はどうしているのだろう・・・。」

ゆきさんは、S井さんの餌やりではあまり見なかった。

「きっとどこかでもらってたのでしょうね」

今でも2日に一度くらいしか、ゆきさんは現れないらしい。

 

ぼくたちの町では、猫に迷惑をしているという人が結構いて、野良猫に関わったり、餌をあげていると、猫の問題を助長させていると思われる。だから、隠れて餌をあげてる、人が、少なくなくいる気がする。だけど、それだと、どの猫がいつ、どのくらい食べたのか解らない。それは猫にとっても、猫と関わる僕たちにとっても、あまりよくない。

このご夫婦も、今まではゆきさんが庭に来ることがあっても、餌はあげなかったらしい。だから、どこかで餌をもらっていたのだと思う。今でも毎日来るわけじゃない。

大きな台風が近づいている。ご夫婦の家にちょっと用があって訪ねてみると、玄関に猫の餌の袋があった。

「台風が来るでしょ。ゆきさんのご飯がなくなったら大変」

と奥さんが、言った。

夜、キッチンの勝手口の扉が開いて、右、左、と首を動かしてゆきさんを探す。

優しくて、穏やかな空気が流れてる。

そんな光景を見る時、ぼくたちは、ねこたちと 暮らしてみることにして、ほんとうに、よかったと思います。


ユキさんの子どもたちは、新しい家とその家の猫とすぐに馴染み、正式にその家で暮らすことになったそうです。

また、改めて書きますね。