子供たちだけを私の家のケージに入れた。

リラは毎晩、庭で見張ってた。

運動不足にならないように、毎日2時間ほどケージから出して遊ばせる。

子供たちは、私になついて、膝の上で遊ぶ。

餌の準備をすると、ケージの中でミャーミャー餌を欲しがる。

子猫たちの目は以前のような輝きがない。

このまま、ケージに入れていても、私は家でこの子達を飼うことは出来ない。

この子達は、家に入れておくと、外で暮らす事ができなくなる。そういう力が身に付かない。冬の過ごし方を誰が教えるのか。リラとヴェガはこの子達と良い関係じゃない。

リリースすると、「無責任」と、言われるかもしれない。

だけど、どうする・・・。

ゆかさんに相談をした。だけど、もう私の心は決まってた。母猫たちのコミュニティにリリースすると。

ゆかさんのご主人は、「それがいい」といった。

彼は、この町で育ち、彼のおじいさんは野良猫たちに餌をあげていた。野良猫と一緒にこの町で暮らしていた。猫アレルギーがあるのに、誰よりも、野良猫を想っていたりする。

午後、麻生子、麻生美、メヤニーをキャリーに入れておじいさんの家のそば、麻生の目の前にリリースした。子供たちは、キョトンとした目で私をみた。麻生の乳を飲もうとした。

私がそこを離れる時、私を追ってきた。

そして、S井さんの家の横の駐車場まで来て、そこに停まっていた車の下から私を見る。

どうか、車にはねられませんように。

私は、自分の家に向かう坂を登った。子供たちは途中まで追ってきて、止まった。

リラが怖いとか、リラの縄張りとか、そういうのをわかっているのかもと思った。

夕方、気になって坂の下に向かうと、下の方から子供たちの声が聞こえてきた。

NさんとNさんの娘さんと、小さな女の子。

Nさんは、犬の散歩に行こうとしていたOさんと話していた。

 

「昨日はユキさんに会えた?これは、メヤニーよ。この子猫は、麻生子と麻生美。あれが富士男さん。」

「ゆぅきたぁ〜ん」

Nさんが「それは富士男さんよ」という。

「おじさぁ〜ん」

私、「それ、メスだから(笑)」

「おじさぁ〜ん」

ゆかさんと子供達が犬を連れてきた。

「あ、麻生子だ!メヤニーもいる。」

二人の子供たちは溝の側にかがみ込んで、麻生子を撫でている。

大人たちは、その光景の中で話している。

 

今日だけ、今だけかもしれない。

それでも、こんな空気が流れる今を大切に思った。

今日だけだとしても、きっとこの日の光景は、子供たちの記憶の片隅に刻まれる、と思う。

いや、もしかしたら、これから、こういう光景を頻繁に見れる様になるのかもしれない。

どちらにせよ、猫のことは迷惑な問題として、気にかけていたとしても、関わる事が難しかった、このまちの、この一角で、今、この穏やかな光景がここにある事が嬉しかった。

懐かしい、遠い、昭和の頃の様だった。

ぼくたちは、ねこたちと、この町で生きている。暮らしてる。

その夜、麻生と子供達、それと富士男さんにご飯を持っていった。

翌朝も、麻生たちはそこにいた。

午後もそこにいた。子供たちは麻生のお乳を飲んでいた。

猫を嫌う近隣人たちは、「また猫が来てる」というかもしれない。

そうだとしても、ここにいた20頭近い猫たちは、保護や譲渡、担当制、死亡で、ほとんどここには居なくなって、ここでは確実に減っている。だけど、また猫がいると言って、嫌な顔をするかもしれない。

だけど、気にしない様にしようと思う。

そこに居た20頭近いねこの事で私たちが奮闘して、大変だったときに、手をかしてくれかった。

麻生も、S井さんの家の庭に来ていた猫。それを放っておいたから、生まれてきて、生き残った子供だちだから。

みんな、がんばれ。野良猫として、逞しく生きるんだよ。

ぼくたちは、見守ってるからね。